お題:こんな夢を見た
僕は薄暗い細い路地を走っている。
えも言えぬ焦燥感がこみあげて無我夢中で走る。
息が上がってる。なのにあの肺が焼けそうな感覚がない。
不思議と走り続けることができる。
何から逃げているのか。そんなの決まってる。
僕を殺そうと、殺人鬼が追ってくるのだ。
だから必死に逃げる。
逃げるのだが……
結局追いつかれたのか覚えていないまま目が覚める。
今日の夢の話を終えたところで彼女がテレビから僕に視線を向けた。
「その夢、よく見るの?」
「よく……ではないけどそこそこ見るかも。」
「よく精神的に追い詰められてる時は追いかけられる夢見るって言うよね。」
コーヒーを飲みながら呟くように言う。
「追い詰められてるかぁ……」
「まあ確かに私の誕生日近いし、プレッシャーに感じてるのかも?」
その一言で、僕がまさにくちづけたカップが見事に停止する。
この反応じゃ忘れてることはバレてそうだ。
観念するように恐る恐る視線を向けると、彼女はイタズラっぽい笑みを浮かべ
「期待してるから。」
と言った。
バイトは……もうシフト入れちゃったから増やせないよなぁ。
「逆に追われる夢見たことないの?」
話を逸らそうと夢の話を振ってみた。
すると彼女は少し苦々しい顔をしながらあるよと言った。
「昔、1人で帰ってた時にさ。刃物持った男に襲われたの。怖くってさ。動けなくてもう死んじゃうって時に、男の子に助けてもらったんだ。」
明後日の方を向きながら彼女は言う。
「でもね、その男の子死んじゃったの。」
彼女は舌をべっと出した。
関連:逆光
1/23/2023, 12:31:14 PM