マイクのハウリングが無駄に広い体育館に響き、いよいよ自分の番が来てしまったことを悟った。
肌寒い日になるので羽織るものを忘れずに、なんて言っていたのは、今朝の情報番組のアナウンサーだったか。
十月も終盤に差し掛かった今日は、確かにブラウス1枚では些か過ごし辛いようだ。暖房のない会場に集まった同級生たちも時々肌を擦り合わせては不満を囁いていた。緊張で寒さどころではない私を除いて。
原稿用紙に手の震えが伝わり、マイクが紙特有の音を拾う。それだけで臆病な私の心は羞恥心でいっぱいになって、いっそ気絶でもしてしまいたいと思った。
集団になった人間は怖い。
自分がマジョリティだと分かった途端、群れから外れた人間を嬉々としてねじ伏せてくるから。
個人では鬱陶しいくらいに身を低くしてやり過ごすくせに、仲間を見つけた途端に自分が強くなったと勘違いする。馬鹿で愚かなことだ。
獲物を狙う肉食獣のような眼が、壇上に上がった私を貫いた。
(大丈夫、私ならできる、大丈夫……)
効果も分からない「人」をさり気なく飲んで、大きく息を吸って。
「読書感想文、1にぇんA組……」
ああ。
────これだから!
『鋭い眼差し』
10/15/2023, 5:45:41 PM