nami

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梅雨が明けたというのに、今日も空は相も変わらず分厚い雲を纏って物憂げな表情を見せている。

ああ、もう! 梅雨はとっくに終わったの! アンタがそんなだと、いつまで経ってもアタシが地上を照らすことができないじゃない!

太陽が苛立たしげに胸の内で毒づいた。
けれど、苛立つ原因は他にもある。

こともあろうか空は人間の娘に恋をしてしまったのだ。
その日を境に、空はその娘のために天候を好き勝手に操り始めた。
たとえ予報が晴れだとしても娘が雨を望むなら雨を降らせ、一日雨の見込みという予報でも、娘が晴れないと困るというならば雲一つない快晴にする、という具合だ。
たった一人の娘のために、太陽も雲もさんざん振り回されることになり、太陽はそれがたまらなく悔しかった。

けれども、当然と言えば当然だが空の恋は成就することはなかった。
娘に恋人ができたのだ。
失恋してしまった空はショックで塞ぎ込み、ずっと気が滅入るような空模様を作り上げていじけている、というわけである。

密かに空を愛している太陽は、彼が恋する娘に嫉妬している。
その娘のどこが好きなのか──その理由を訪ねてみたことがある。

笑顔がとても素敵なんだ。見ていると温かい気持ちになる……まるで陽の光のような温もりのある笑顔に、僕は惹かれているんだよ。

空が幸せそうに答えたのが憎らしかった。

何よ、陽の光のような……って。
本物の太陽であるアタシが、こんなにもアンタを愛しているっていうのに気づきもしないだなんて……!

太陽の中で悔しさと哀しみが逆巻いている。
そして、相も変わらず分厚い雲を纏って物憂げな表情を見せている空を睨みつけた。


テーマ【物憂げな空】

2/25/2024, 1:03:57 PM