俺は、年始から神社でちょっとしたバイトをしている。
俺の叔父は近所で小さいながらも由緒ある神社の神主だ。
近年外国からの観光客が増え、神社の人手が足りないことに加え、俺が大学で英語を専攻していることもあり「お年玉弾むからどうしても頼む」と頼み込まれたのだった。
大学が冬休みのため、俺はほとんど毎日を神社で過ごしている。
仕事は掃除や観光客へのちょっとしたガイドなどだ。
今日はかなり参拝客が少ない。
快晴で寒さもかなり和らいできているため、日光が心地よい。
穏やかに境内の掃き掃除をしている時だった。
「わたしのこえがきこえますか」
急に声が聞こえたような気がした。
いや、聞こえたという表現は正しくない。
正確には俺の耳には届いていない。
頭に直接流れ込んでくるようなイメージなのだ。
俺に霊感といった類いのものは皆無だ。
でも、直感的に嫌な感じはしない。
「わたしは、梅の木の精です。」
再び流れ込んできた言葉は、先程よりもより明確に感じ取ることができた。
梅の木の精…?
「ふふ、あなたには私の声が届いているようですね。
一年の時を経て、蕾たちが芽吹き始めました。
ようやく私も目覚めたところです。
あなたと、もっとお話がしてみたいのです…」
…この声の主はきっと、清らかな梅の女神様だろう。
この感じは…多分…
艶やかな黒髪で、涼しげな流し目の美人だ…
いや、きっとそうだ…
梅の木はたしか、本殿の裏手に一本だけだ。
俺は箒を片付けて浮かれる心を全面に出し、本殿の裏へと回った。
梅の木の前には、神々しい光に包まれた…
艶やかな黒髪の───
厚い胸板の、屈強な男が…
妖艶な…流し目で俺を見ている───⁉︎
3/2 芽吹くとき
3/1/2025, 5:53:53 PM