ね。

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カーン カーン 
高い鐘の音がきこえる。


高い鐘の音は、空気が安全だという合図だ。ボクは窓を開け、大きく息を吸い込む。新鮮な空気が身体中を駆けめぐり、生きていることを実感させる。


空を見上げると、久しぶりに鳥たちが飛んでいた。不思議だ。空気が汚染されてから、あちこちで生きものたちが死んでいったのだ。鳥たちはどこから来たのだろう?どうやって生き延びたのだろう?
この村に住む人びとで、今生きているのは10人に満たない。普段はそれぞれ家の中で過ごすしかなく、お互い食料は分け合ってはいたものの、残り少なくなっていた。
他の村はどうなっているのだろう?と、考えることもあったが、この場から出る勇気がボクにはなかった。今ある食料と誰かが鳴らしてくれる、鐘の音だけを頼りに生き延びていた。




ふと、鐘の音がずいぶん長く鳴り響いていることに気づいたボクは、思い切って外に出てみることにした。食料の受け渡し以外で外に出るのは久しぶりだった。
鐘の音の方角をみると、遠くに光る柱がたっていた。かなり大きい。その柱は、ピンクと紫がかかった柔らかな色で、高く高く空までのびていた。
ボクは引き寄せられるように、その柱へ向かって歩きはじめた。光の輝きがあまりに美しく、触れてみたくなったのだ。怖くないといったら嘘だが、どうせこのまま村に留まり家の中にいても、死を迎えるしかないだろう。なら、今進みたい気持ちを優先してもいいじゃないか、とボクは感じたのだった。


村を振り返ると、窓から数人の人びとが心配そうにこちらを見ていた。手をふってみたが、誰もこたえるものはなかった。
ボクはひとりで行くしかないのだ。




どのくらい歩いたのだろうか?
光の柱を目の前にしたとき、ボクは溢れる涙をとめることができなかった。柱の中で鳥たちが飛んでいるのが見えた。死んでしまったと思っていた生きものたちがそこにいたのだ。ただ穏やかに、輝いて。


ボクは、そっと光の中に足を踏み入れてみた。ほのかにあたたかった。ボクは目を瞑って深呼吸をしてみた。身体が宙に浮き、溶けてなくなっていくような感じがする。
鐘の音が大きく鳴り響いてきた。

12/14/2025, 7:02:33 AM