蒼星 創

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「こんばんは、孤独な方。私があなたの友達になりますよ」
 夜、仕事帰り、マンションに囲まれた小さな公園。ブランコとベンチと自販機しかない。ジュースを買ってベンチでうなだれてるとそんな声が聞こえてきた。失礼なこと言う奴も居るもんだな―― 事実だけれど。顔を上げあたりを見渡してみるが誰も居ない。
「ここですよ。ここ」
 疲れているのか。街灯から声が聞こえてきた気がする。
「そうです。あなたを優しく照らし出す。虫にモテモテな街灯です」
 
 幻聴か。耳鼻科、脳神経内科、精神科に行くべきか。
「上から見るとハゲてますね」
「ハゲてね―よ」
 思わず反応してしまった。完璧に怪しいやつだ。
「聞こえてるじゃないですか。お話しましょーよ」
 街灯の声って若いんだな。立ち上がる気力もなく現実逃避しながら仕方なく話し始めた。

 色々な話をした。仕事や人間関係の悩み。通勤電車がつらいこと。上司がタバコ臭いこと。――孤独を感じること。愚痴ばかり話してた気がするが、街灯は「正直よくわかんないですけど」とほとんど流してた。だけれど、誰かに話せて少しすっきりした。
「まぁ、うなだれて下ばかり向いてないで上を向けば気付くこともありますよ」
 その言葉に上を向いてみた。マンションの明かりが見える。きっとそこには悩みと無縁の人もいれば同じことで悩んでる人もいるんだろう。自分だけじゃないと思うことが出来た。そしてもう一つ気付いたことがあった。立ち上がる。

「ありがとう、話せてよかったよ」
 けれど――と続ける。街灯に着けられた小型のスピーカーをコツンと叩く。マンションの上層階に向かって手を上げる。
「ちゃんと回収しておくように」
 はーい、という声がスピーカーとマンションの上から聞こえてきた。

 [街の明かり]

7/8/2023, 3:43:17 PM