そらか

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ほぷらい 14✖️21


「ライトさんは、もし明日世界が終わるなら……何をしますか」

 唐突な問いだった。

ライトニングは答えず、膝の上のブレイズエッジを黙々と整備し続ける。金属を拭う布の擦れる音だけが、静かな野営地に小さく響いていた。

彼女は視線も上げないまま言う。

「……もう終わってるようなものだろ」

 低く、乾いた声だった。

「このままなら、私たちはシ骸になるか、クリスタルになるかだ」

 その言葉は事実でしかない。
 慰めも希望もない。ただ、現実だけを切り取ったような声。

 ホープは膝の上で手を握る。

 本当は、もっと軽い話のつもりだった。
 食べ物でも、景色でも、どうでもいい未来の話でも。

 けれど気づいてしまったのだ。

 自分は、ライトニングのことをほとんど知らない。

 戦い方も、強さも、怒り方も知っているのに。
 彼女が何を好きで、何を見たいと思って、どんな時に少しだけ気が緩むのか。そういう“普通”を、何も知らなかった。

 もし終わってしまうなら‥‥

「例えば、です」

 ホープは無理やり口元を上げる。

「食べたいものとか、行きたい場所とか。そういうの、ないんですか」

 ライトニングは小さく息を吐いた。

 そして今度は、珍しく問いを返してくる。

「……お前は?」

「え?」

「明日終わるなら、お前は何がしたい」

 ホープは目を瞬く。

 彼女から自分へ質問が返ってくることは少ない。
 まして、こんな私的な問いは。

「僕は……」

 言葉にした瞬間、自分でも驚くほど簡単に答えが出た。

「ライトさんと、一緒に出かけたいです」

 ライトニングの手が止まる。

「美味しいものを食べて、綺麗な景色を見て……色々な話をして」

 続けながら、胸の奥がじわりと痛んだ。

 そんな当たり前のことを、自分は彼女と一度もしていない。

 戦って、逃げて、傷ついて。
 気づけばいつも、生き延びることだけで精一杯だった。

「それで……」

 喉が詰まる。

「最後まで、一緒にいたいです」

 視界が微かに滲む。

 情けない、とホープは思った。
 泣くつもりなんてなかったのに。

 その時、不意に金属音が鳴った。

 ライトニングがブレイズエッジを鞘に収めた音だった。

 彼女は静かに身体を動かし、隣に座るホープとの距離を少しだけ縮める。

「……最後の日まで、私といるのか」

 呆れたような声音。

 けれど、その口元はほんの僅かに緩んでいた。

 ホープは息を呑む。

 こんなふうに笑うんだ、と思った。

 焚き火の明かりに照らされた横顔は、いつもの軍人みたいな硬さが少しだけ薄れて見えた。

「はい」

 即答だった。

 ライトニングは数秒、何も言わなかった。

 やがて視線だけをこちらへ向ける。

「……どこに行く」

「え」

「お前、行きたい場所があるんだろ」

 一瞬前まで沈んでいたホープの顔が、目に見えて明るくなる。

「あります!」

 勢いよく身を乗り出した。

「ノーチラスパークです!」

「……遊園地か」

「カーバンクル見たいんです。パレードもあるらしくて、あと食べ物も美味しいらしくて……!」

 話しながら、ホープは完全にいつもの調子を取り戻していた。

 あれもこれもと説明する声を、ライトニングは静かに聞いている。

 その横顔は穏やかだった。

 明日、世界が終わるかもしれない。

 それでも。

 こんな顔で未来の話をする少年を見ていると、ほんの少しだけ。
 終わらない世界を想像してしまう。

 絶望の中でも、誰かと並んで笑える未来を勝手に夢見る。

 そしてきっと、それが“希望”なのだろうと、ライトニングは思った。



明日世界が終わるなら

5/7/2026, 3:27:34 AM