案内されたベンチに腰を下ろし、渡された番号札に目を落とした。最近は番号だけじゃなくて、NとかRとか用件ごとにアルファベットがつく。手の中のRが一体何を指すのか、私は知らない。
戸口に立って誘導してくれるのは、いつきても同じ係員だった。たどたどしい日本語で「ぶんのー」とか「のーふ」言われると、なんだか異国の言葉のように聞こえる。
不意に左手の奥で盛大な拍手が起こった。
「えー、このあとここのドアを出たらですね、皆さんここでのことは一切忘れましょう」
年嵩の男性が真面目くさって話し始めたところで、番号が呼ばれた。
「すみませんうるさくて」
椅子に座るや謝られる。今日で最後なんです、年内。
「くれぐれも、各自の生活や、ご家族のことに心を向けて下さい」
男性は話しつづける。そういえば、この区に来てから窓口対応に不満を持ったことはない。
「いえ」
ここの皆さんの年末が穏やかであるようにと内心で祈りを捧げて、私は保険料分納の相談を切り出した。
『祈りを捧げて』
12/26/2025, 9:59:20 AM