NISHIMOTO

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あなたにもらった本が捨てられない。
布のカバーは端がほつれ、2本あったスピンは片割れしか残っていない。
昔、あなたが読んだところには青のスピンを、僕が読んだところには赤のスピンを挟んだ。僕は読むのも遅くて機会も少なかったから周回遅れで、あなたは繰り返し短時間で読むから頻繁に位置が変わる。
リビングのテーブルに置かれた表紙の鮮やかなデザインが目に入るたび、そっと横から目をやって、今はどこのあたりだろうと気にしていた。
それも今はもう動かない。
自分が読み切った時に赤色を外へ垂れたままにしていたら、いつのまにか引っ掛けてボロボロになったので、それを切った。
あなたが挟んだ青色を何度も何度も追い越して、慣れているからスピンがなくとも一冊読み切れるようになって、あなたの速度に追いつけただろうか。中を誦じれるくらいになっただろうか。
次、会えたら、あなたの前で覚えている限り暗唱してやろう。
それだけ読んだのだと驚いてほしい。
それから、「伏線になるところに挟んで遺すんじゃないよ」と言ってやりたい。
「なるほど、ずいぶん大切にしてくれたんだなぁ、きみ」
って言ってくれるかい。

4/3/2023, 10:18:16 AM