#3
夜会まで2週間を切った。
その間、ウォード様から手紙が届くこともなければ、ドレスが送られてくることもなかった。
(なんでだろう?私、何かしたかしら?)
淑女にあるまじきソワソワぐわい。けれど、ウォード様の所為。ウォード様さえ、話してくだされば、私はこんなにも緊張しなくて済むのに。
(あ!そうだ!)
ふと妙案が思いつく。
「ガーナ!こちらへ来て頂戴!」
そう言うとガーナ、つまり私のメイドがそっとドアを開けて入ってくる。
「お嬢様、いったいどうされましたか?」
「ガーナ、私ね、市場へ行きたいの!」
「市場、ですか?」
「ええ!お父様に打診しといてくださる?」
「畏まりました。ご要件は以上でしょうか?」
「そうね、もうない…あぁ、いや、ウォード様からの手紙は届いてる?」
「いいえ。未だでございます。」
「そう…。じゃあもう下がっていいわ。」
がっかりしながらそう告げると、ガーナは恐る恐ると言った感じで部屋を出ていった。怒鳴るわけでもあるまいし、堂々としていればいいのに。第一ウォード様から手紙が来ないのはガーナの所為じゃないだろうに。
ガーナは見た目は可愛いし、私のお気に入りだ。もっと髪型を変えて、オドオドしなくなれば皆が釘付けになるに違いない。
ガーナをいかに垢抜けさせようか考えていると、執事が私のことを呼びに来た。
どうやら、お父様は今日の夕食の席で私の話を聞くつもりらしい。
「ありがとう。」
執事に礼を告げてから夕食会場へ入る。豊満な肉の匂いが立ち込め、色とりどりの食卓は食欲を唆る。
「お父様。お待たせ致しました。」
「嗚呼。」
お父様はそれだけ返すと、近くの席を指さした。お父様はいつも寡黙だから、仕方ないのかもしれないけれど。
「市場に行きたいのだそうだな?」
食事をしようとナイフを取り上げると、お父様からいきなり聞かれる。
「はい。その通りです。」
ナイフを元の位置に戻しながら答える。
「何故だ?」
「実は…ウォード様へのプレゼントにクリスタルを渡したくて…」
恥ずかしくて少し言い淀んでしまう。お父様がそれに気づいたかは知らないけれど、小さく溜息を付いたのは見えた。
「それなら、宝石商を呼ぼう。」
「それでは意味がないのです。お父様にもお土産を買って差し上げたいのに。」
「そうか。なら、護衛を付けてなら、いいだろう。」
「本当ですか!」
「嗚呼。明日にでも行けばいい。」
お父様から了承を得た私は、珍しく楽しい気分で食事を終えることができた。
「ガーナ、私、明日市に行けることなったわ!」
「それは良かったですね。ウォード様へ何か送るのですか?」
「ええ!クリスタルを。ウォード様に似合うものがあるかしら?」
待ちきれずに、ガーナを呼び出して恋バナをするなんて、過去の私ではあり得なかった。
ウォード様ってやっぱり、凄い方だ。
「明日は私も市に行けるそうですから、そこでウォード様に似合うものを探すのをお手伝いさせていただきます。兎に角、今日は早くおやすみなさいませ。」
ガーナはそう言って、私に布団をかけた。
暫くは眠くなくて寝れなかったけれど、寝返り打つうちに、何時しか微睡みの中へと落ちていったのだった。
7/3/2025, 9:06:36 AM