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『私の日記帳』

役場に行った帰り道、あまりの暑さにアイスを買い、適当な木陰で一休みしていた。

目の前にはゆるく続く坂道。
その手すりにもたれ掛かって、熱心に何か書きつけている人がいた。
小さな青い手帳に鉛筆で。

興味を惹かれたが話しかけることもなく、アイスを食べ終えた私は歩き出した。

するとバサリと音がして、振り返ると先程の人が地面に両手をついていた。
慌てて駆け寄り大丈夫かと声を掛けた。どうやら目眩を起こしたらしい。

木陰に誘導し、熱中症予防の飴とペットボトルの水を渡してしばらくすると、その人が「何かお礼を」とポケットやカバンを探り出した。

礼には及ばないと立ち去るところだが、ふとあの手帳のことが気になった。
何を熱心に書いていたのか尋ねると、「私の日記帳です」と言う。
お礼の代わりに読んでもいい、とまで。

さすがにそれは遠慮したかったのだが、半ば強引に手渡された。

日付は、明日以降のものだった。
これから先に起こるであろう災禍の予定。

私が言葉を失う横で、その人は穏やかに微笑んでいた。

8/27/2024, 4:12:04 AM