セントラル所属の『描き手』ローダは「森奥の廃墟」と呼ばれるダンジョンの探索を命じられていた。「管理人」の協力により、管理人から彼女の護衛を兼ねたダンジョンの「案内人」を貸与された。
その案内人との顔合わせは済んでおり、今日からその案内人と共にダンジョンの探索を行うこととなる。
ローダは指定された待ち合わせ場所で、かれこれ一時間ほど待っていた。
(……舐められたものね)
溜息をつくと拳をぎゅっと握る。振り仰いで「森奥の廃墟」のダンジョンを見上げる。このダンジョンは珍しく、ダンジョンとしての入り口が高いところにあった。
とはいえ、届かない距離ではない。
このまま愚直に待ち続けて、あの案内人が本当にやってくるのか疑わしいものだ。軽薄が服を着て歩いているような青年だった。
ローダは書き置きを残すと、ワイヤーを使って登り、ダンジョンの中に足を踏み入れた。
廃墟と呼ばれているものの、ダンジョンの中はどちらかというと洋館といった体だった。足下もしっかりしているし、探索するにはいい環境と言えるだろう。
ローダは画板を取り出すと、羊皮紙を画板にセットする。携帯インク壺を左手に、羽ペンを右手に持って、彼女は今いる入り口を起点に、ゆっくりと地図を描き始めた。
仕事に没頭していた彼女は、急に肩を叩かれて、思わず小さな悲鳴を上げ、肩を大きく跳ねさせてしまった。持っていた物をぼろぼろと地面に落としてしまう。
「だっ、誰ッ!?」
身を護ろうと小さくなりながら、ローダは振り向いた。
「俺だよ、ローダちゃん。遅れてごめんな~」
軽薄そうな青年が、そう言いながら、彼女の落とした荷物を拾っていく。ローダはその青年を見て、ほっとしたように胸を撫で下ろした。
「なんだ……ウェルナーか……驚かせないでよ」
ウェルナーと呼ばれた青年は、彼女の荷物を拾い終えると立ち上がった。
「一応、何度か声はかけたんだよ? うんともすんとも言ってくれないからさ」そう言いながら、彼女の荷物を渡す。「これで全部? 足りない物ある?」
ううん、とローダは首を振った。礼を言うと、再び画板に羊皮紙をセットし直し、地図を描く準備を整え直す。
あのさ、とウェルナーが口を開いたので、ローダは彼の方を見やった。
「何?」
「遅れて本当にごめん」彼はそう言うと頭を下げた。「……こんなざまじゃ格好もつかないけど、これ貰ってくれる?」
彼はローダに碧玉のペンダントを渡した。ローダは不思議そうに小首を傾げた。
「何、これ?」彼女は口元を緩ませた。「綺麗ね。星の欠片みたい」
「えっとね、まあ……魔除け、みたいな? あと、俺にとっての目印みたいな……」
しどろもどろになって言う彼を見て、
「そう。ありがとう、ウェルナー」
ローダは微笑んだ。
1/9/2025, 6:50:26 PM