せつか

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気が付くと、とっくに夜は明けていた。
暗い部屋から廊下へと出ると、朝日が差し込み景色全体が白く輝いている。
その眩しさに目を細めながら、男はゆっくりと回廊を歩いていた。

眼下の広場ではそこかしこで朝のざわめきが起こっている。帰還した兵を出迎える者、勤務交代の申し送り、気の早い物売り達。今日からまた始まるいつもの日々。男には帰ってくる友を待つ余裕など無く、追われるように階下へ向かう。
角を一つ曲がったその先に、長身の影があった。

白い廊下に浮かぶ黒いシルエット。
いつもとは正反対の印象に、男は一瞬怯む。
「――ただいま」
黒い影は男のよく知る声で一言そう言った。
「·····」
何も言えずにいる男に、影はゆったりとした歩調で近付いてくる。いつもと同じ、跳ねるような歩き方だった。
背中に腕が回る。肩に顎を乗せてきた影に男は何か言おうとしたが、影はそれを許さなかった。
「何も言うなよ」
「――」
「しばらく、このまま」

陽が高くなるにつれ、光の範囲は広がっていく。
白く輝く回廊にこのまま二人、飲み込まれていくような錯覚に陥る。
それでもいいと、男は思った。


END


「光の回廊」

12/22/2025, 1:29:13 PM