「僕たちって何なんでしょうね?」
彼が缶ビールを爪先で弾いて言った。
僕は雲がかった満月から彼に視線を移す。
彼は僕の方を見ずに缶ビールを口元に傾けた。
ごくりとビールが飲み込まれていく音が聴こえる。
「何、とは?」
僕が尋ねると、彼はやはり視線を宙に彷徨わせたまま、
「僕たちの関係ですよ」
とぽそりと返した。
僕ははて、と思わず首を傾げた。
関係。僕と彼の関係?
「友達でも恋人でもない。ただ、満月の日だけ一緒にこの公園のベンチに座ってお酒を煽る僕たちの関係って何なのでしょうね」
彼はそう言うと、ガサゴソとコンビニのレジ袋を漁る。二本目の缶ビールを取り出し、かこんと音を立ててプルタブを引いた。
彼と出会ったのはいつだったか今になっては思い出せない。ただ、満月のいつの日か、僕はえらくその美しさに感動して、外で月を見ながら酒を呑もうと思い立った。
近所の公園に缶に入った酒を何本か持ち寄った。
それからベンチに座って、月を見ながら酒を呑みはじめて、程なくしてから彼が同じく何本かの酒が入ったレジ袋を提げて現れた。
彼は僕を見て、ぷっと吹き出した。
酒をレジ袋から取り出して
「同じです」
と笑って言った。僕もつられて吹き出した。
その日から僕と彼の付き合いは始まった。
満月の日だけ、肩を並べて酒を呑む。
確かに名で言い表せない奇妙な関係だ。
だけど僕はそれでも良いと思った。
僕も彼と同じようにビールをごくりとやってから言った。
「強いていうなら特別な関係、ですかね」
彼は少し驚いたように僕に視線を向けた。
「別に、名前で言い表せる関係ばかりしかこの世の中にあるわけじゃない、変に名前なんかつけなくても大雑把に特別な関係とでもしておきませんか?」
彼はふっと笑い声を漏らした。
「…そうですね、そうしましょうか」
それから彼は、
「でもえらくロマンチックな関係ですね」
と揶揄うように続けた。
僕は少し照れ臭くなってしまって誤魔化すようにビールを煽った。
3/24/2023, 9:43:11 AM