「ただいま。」
「んお、おかえりー。」
古いアパートの、トタンでできた階段を上る足音が14回して、それから部屋の扉が開いた。古いドアは軋む音を立てて、金属同士の擦れる嫌な音を発する。しかし、彼の帰宅してきた音だと思うと、普段は不快な音だって気にならない。
「それなに?」
彼の手にある白い箱が気になって、ふと訪ねてみた。それなりに大きくて、つるりとした表面は華々しいレース模様で飾られている。
「ああ、これ。ケーキ。」
なるほど、言われてみれば。確かに甘い匂いが微かに漂っていた。
つくづく自分達は相性がいいのだと、笑みがこぼれる。そう、俺は今日、甘い物に合う酒を買ってきている。なんとなく惹かれて買っただけだが、もはや運命なのかもしれない。
「俺もいいモノ持ってんだけどさぁ~。」
ぬ、と効果音の付きそうな滑らかさで、暖房の付いていない、天然冷蔵庫並みの廊下から酒を持ってきた。
甘みの強い赤ワインで、ケーキの隣に置かれる程相性がいいらしい。
「え、マジ?赤ワインじゃん。俺買ってきたの丁度チョコケーキなんだよね。」
やはり俺たちの相性も最高なようだ。あまりの息の合いっぷりに自分でも驚いてしまう。
「運命じゃね?」
「運命だね。」
2人ではにかみ合って、謎の気恥ずかしさに包まれる。机に並べられている夕食を食べた後の予定に、とろりとして濃厚そうなチョコケーキと、深い赤色をしたワインを堪能する時間が追加された。
記念日でも無いのに、なんだか特別な日のようで、心がくすぐったい。
温め直した夕食を食べ、2人並んでソファに座る。ローテーブルの上には、チョコケーキと赤ワインを綺麗にセットした。
調子に乗って、電気を消してテレビで適当な映画を流す。普段通りの緩い空気で、普段より少しだけ特別で、豪華な夜だった。
テーマ:特別な夜
1/22/2026, 7:44:00 AM