たぬたぬちゃがま

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「おはよう、『うさぎ』さん」
「こんばんは、『みのむし』さん」

オンラインでのみ会える友達。うさぎさんはいつもそこにいた。自動翻訳機能を使っているから相手がどこの国かはわからない。向こうも同じ機能を使っているらしく、意味不明な言い回しにならないよう自然と子供のような言葉遣いを使っていたから年も性別もわからなかった。ただ、話している限り、そんなに離れすぎていたりはしていない気がする。使う挨拶が異なるので時差が相当ある国の人とだけわかった。
不思議と話が合うと長続きするもので、距離は相当離れているのにかなり身近に感じられた。

「おはよう、『うさぎ』さん」
ある日、友達がいなかった。いつもこの時間にいるのに。少し寂しく感じたが、オンライン友達なんてそんなものだと思い込むことにした。

何日も来なかった。寂しいという気持ちは膨れ上がるばかりで、時間薬などないんだと実感した。


「こんにちは、『みのむし』さん」
「……『うさぎ』さん?」
「会えてよかった。……まだオンラインだけど」
一緒の挨拶がしたかったんだ。
そうチャットで伝えるその人は、わざわざ国を飛び出してきたらしい。
「できれば、僕と話して欲しいな」
自動翻訳が外れた言葉はとても優しくて、私はつられて自動翻訳の機能をオフにした。


【時計の針が重なって】

9/25/2025, 9:37:16 AM