「好きです…」
勇気を振り絞った一世一代の告白。
そんな告白に彼は眉を垂らした。
「え、それ本気で言ってんの?」
小さく頷く。
と、彼は悲しそうに笑った。
「そっか」
まるで嘘であってほしかったかのように。
あぁ、これ振られるんだよなぁ。
考えたら急に悲しくなってきて下を向く。
本当、馬鹿だな、私。
これからも関わってくいくのに、気まずくなっちゃったじゃん。
「何で?」
「え?」
「何で俺なの?」
「…気遣ってくれる所とかを好きになったの」
「俺等、幼馴染じゃん?どうして今…」
「何となく分かってたの、だけど認めたくな無いっていうか…意地はって先延ばしにしてきた。でも、認めざるおえなくなった。きっかけは夏休み。アンタと親友が二人で出掛けるって話聞いてモヤッとした。アンタ達の関係に妬いた」
「…知ってたの?俺達が付き合ってるって。俺は勿論、沙矢(さや)にも黙っとくよう言っといたんだけどな」
「気づくよ、そりゃあ。だから、これは私が満足する為の告白。沙矢にも告白するって言っといた。もうこれでおしまい。アンタは私を振ってこれからもなにも無かったように生きていく。私達の関係は変わらない。けどアンタには沙矢がいる」
涙が出てきた。
やがてその涙は私の頬をつたい地面に落ちる。
「だから!だから!!………だから、もう、これ以上優しくしないで…」
こんな告白、こいつには、海(かい)には重すぎるかもしれない。
海は何時だって優しかった。
格好良かった。
護ってくれた。
寄り添ってくれた。
慰めてくれた。
だから、こんなときだって私に優しくする。
寄り添ってくれる。
私の目の前には海のハンカチがあった。
汚れ一つ無い真っ白なハンカチ。
まるで、海の心みたい。
海はもう私の頭を撫でてはくれない。
ずるいなぁ。
沙矢が、羨ましい。
いや、違うの。
沙矢は努力した。
意地をはってた私とは違う。
純粋で、汚したくなるほど綺麗な心は海と同じ。
だから惹かれた。
そんな彼女が好きだった。
一番の親友だった。
だったら喜ばなくちゃ。
努力は結ばれた。
無事に付き合った。
良いことでしょ?
私は彼女を嫌いになれない。
それは、海も同じ。
あぁ~あ。
私はきっと地獄に堕ちる。
親友の幸せを喜べないなんて、私の心は汚れているの?
だから、海とも付き合えないの?
それとも、最初から私と海の糸は繋がってはいなかったの?
誰かに切られたんじゃなくて?
それならなんで?
私は海を好きになったの?
この気持ちは恋心じゃ無かったの?
そもそも、この好意は海にじゃなかった?
じゃあ、一体誰に向けたものだっていうの?
沙矢?
どうして、そんなのあんまりじゃない?
じゃあ、私の運命の糸は最初から何処にも繋がっていなかったの?
ずるいと思ったのは、紗矢にじゃなくて、海ってこと?
叶わない恋なんてしたくなかった。
それじゃあ、今抱いているこの嫌悪感は、海に対して?
恋敵に優しくされたくなかったの?
「どうして、優しくしちゃいけないの?」
「…………私は!アンタなんかに!慰められたくない!」
「え、ごめ」
「そうやって!謝らないでよ。とにかく、もうこれ以上優しくしないで」
後ろも見ずに歩き出す。
どんな顔をしているだろうか。
それとも、私の言葉なんかじゃ心には響かないのだろうか。
これからはどんな顔で会えば良い?
分からない。
今もなお止めどなく溢れてくる涙の止め方を知りたい。
今日が初めて、優しさを気持ち悪く感じた日だった。
ー優しくしないでー
5/3/2024, 4:09:15 AM