はぁはぁと息が上がる。どこまで来たのだろう。暗闇の中をただ必死に逃げ続けるのに、終わりは見えない。この感覚と一生付き合っていかなかればならないのかもしれないと覚悟しても、毎回毎回この場面に遭遇すれば、尋常ではない汗を伴う。そして、生きてくれと願うと同時に目が覚める。
――これは夢だ。
そう理解していても、あの時の悍ましさを夢と共に思い出す。そして夢の中でぐにゃぐにゃとした得体の知れない人のような人でないものは俺を『人殺し』と言う。
お前らは俺の何を知っている。本当のことを知っているのか。そう問いただそうとしても、自責の念は口を開くことを許さない。だから目が覚めるまで、現実に戻るまで逃げることしかできない。…そう、俺はどこまでも弱い人間だ。
「何してるんですか!」
夢の中で彼女と出会ったのは初めてだった。目の前に光がさしたかのように彼女という存在が、俺を張りつめた緊張から解放される。もう大丈夫だと思う俺がいる。
忘れない。何度、夢の中で逃げている弱い俺がいても、それでも、忘れたくないあの日のことは。
差し伸べられた彼女の手を掴むと、大きな光が俺たちを包み込みやがては真っ白で何も見えないように世界は変わった。
「今日、夢の中にお前が出てきたんだ」
「そうなの?」
「名前が…、名前が助けてくれたんだ」
「いつも助けてもらってるから、夢の中であなたにお礼をしたのかな」
「…俺はなにも」
「そんなことない。出会ってくれてありがとう」
過去のこと、忘れはしない。けれど、前に進む。彼女と。
5/30/2022, 12:07:36 PM