MWの二次創作

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空白


BL注意



 目の前に、一枚のプロフィールシートがある。
 小学生の頃、主に女子たちの間で流行っていたものだ。淡いカラフルなシートで、色んな種類の制服を着た女の子たちのキャラクターが描かれている。確かあの頃、流行っていたキャラクターだったはず。雑貨屋にいけば必ずと言っていいほど、このシリーズで一通りの文房具があった。
【好きなものコーナー(食べ物)(色)(人)(教科)(本)(アニメ)(音楽)(映画)】【趣味】【魔法が使えるなら】【宝くじが当たったら】【将来なりたいもの】
 虫歯になりそうなくらい甘い色味のシートに書かれている設問の数々を、僕は到底埋められそうにない。ひとつも思い浮かばない。その事実に胃が沈む気がした。
 その時不意に、玄関の鍵が開く音がした。
「よっ、一葉。生きてるか」
 リビングに姿を現したのは、やはり竹原敦也だった。その手には北海道土産の紙袋を持っている。そういえば先週末、北海道に出張だと言っていたことを思い出した。
「また勝手に来て……」
「ん? それなんだ?」
 僕の小言をスルーし、敦也の手がプロフィールシートに伸びる。
「買ったのか?」
「まさか。小学生の頃、ふざけて渡されたのがまだあっただけだよ」
「ふうん。……名前すら書いてねえじゃん」
「名前が一番嫌いだもん」
 一葉という名前をつけたのは母だと聞いた気がする。本当は父かもしれないし、兄たちの誰かかも知れない。今となってはそんなことどうでもいいし、あの人たちと同じ苗字であることも嫌だ。
「懐かしいな。俺も女子たちから何枚も渡されたっけ。なあ、これ、俺が書いていいか?」
「良いけど」
 ソファから立ち上がり、ボールペンを取ってくる。敦也がシートの前に座っていて、僕はその隣に腰を下ろした。
 ボールペンを差し出すと、敦也はさんきゅ、と短く言って受け取った。そして裏面から書き込んでいく。

【好きな物コーナー
(食べ物 アーモンド)(色 緑色)(人 )(教科 国語)(本 太宰治)(アニメ 豆しば)(音楽 ポップス)(映画 相棒)】
【趣味 読書】
【魔法が使えるなら 古傷を治す】
【宝くじが当たったら 世界旅行】
【将来なりたいもの 家族】

「ねえ……ちょっと」
 なんだかムズムズする。敦也はお構いなしに表を向け、個人情報全部に書き込んでいく。

【ケー番 080……】
【メアド ……@……】
【年齢 27】
【名前 竹原一葉】

「ねえ!」
 力いっぱい肩を叩くと、敦也は悪ガキっぽい笑みを浮かべてこちらを見た。
「だって、一葉が貰ったシートだろ?」
「だけど! た、竹原って……!」
「指輪受け取っといて、恥ずかしがるなよ」
 骨折したまま緩く曲がってしまった左の薬指で、シルバーのリングが光を放っている。同じ物が敦也の左薬指にもある。
「それに。一葉が知らないことも、俺なら知ってるものなんだぜ。だから」
 シートを再び裏返す。唯一空白の欄を、敦也は指さした。
「ここ」

【好きな物コーナー ……(人)】

「好きな人はってとこ。俺の名前書いてよ」
「は」
 心音が跳ね、どっと汗が吹き出た。
「ほら」
 ボールペンを握らされる。
「公開処刑……」
「誰かに見せるわけじゃねーんだから」
 そうは言っても、当時これを渡した女の子の、ぼやけた顔がチラつく。確か背の高い、ポニーテールをした女の子だった。

【竹原敦也】

 空白を埋め切ると、僕にもこんなに好きなものがあるんだと、実感が湧き始めた。
「……なんか、嬉しいし、照れる」
 ぽわぽわと、体が熱を帯びる。敦也の大きな手が頭を撫で、頬にキスをした。
「北海道土産持ってきたんだ。食べようぜ」
 そう言ってソファから立ち、台所に向かった。
 敦也の姿が見えなくなってからプロフィールシートを表に返し、敦也らしい硬い字で書かれた【竹原一葉】の名前をそっと撫でた。

9/14/2025, 2:46:49 AM