「すごいなぁ…」
ベンチに座り頬杖をついて彼の訓練風景を眺めるのが好きだ。スラッとした長い脚は肩幅ほど開き、音もなく矢をつがえた真剣な横顔に惚れ惚れしてしまう。突風が吹いて矢の行く先は的から逸れてしまうが体幹がぶれることはない。
苦手な武器だと話す彼だが的を見る限りそうは思えなかった。用意した的すべて、ど真ん中に当たってどれも狙い撃ちされているのに。素人の私にはわからない武人の感覚が彼にある。
彼は私が飽きていないか視線を投げ掛けてくれる。それに手を振ったり、拍手を送って飽きないよとアピールしていた。
あまりに気にかけてくれるから訓練の邪魔になってるかも。次に目が合ったら帰えろうかな…。
気にかけてこちらを見てきた彼の視線は鋭く、突然弓を構えた。狙いは的じゃない…私?
矢じりが光り怯えて目を細めた『刹那』、びゅっと風を切り耳もとを掠める。
すぐ後ろで鈍く重い音がして射られて地面に倒れたんだと知った。私の周りには何もなかった記憶がある。彼に見とれて賊に狙われていたことに気付かなかった。
危機的状況に落ち着いて対処できるんだから、苦手と言う紹介はやっぱり無理があると思う。怪我はないかとこちらに走ってくる彼にそんなことを思っていた。
4/29/2023, 4:44:44 AM