狼藉 楓悟

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 目は口ほどに物を言う、なんて言葉がある。『情をこめた目つきは、口で話す以上に強く相手の心を捉える』という意味らしい。
 その通りだと思う。本当に。人間相手じゃなくともこれだけひしひしと伝わってくるのだから。

「あの〜……そんなに嫌がらなくても……」
「シャーッ!」
「はい、すいません。近寄らないです。」

 友人が出張で家を空ける2日間。飼い猫の世話をして欲しいと頼まれ合鍵を渡されたのが昨日の昼。
 メモ通りにご飯をあげて、トイレ掃除して、少し撫でてみても……なんて思ったのが約1時間前。
 全力で逃げられ、そのうえ何故か扉の前に陣取られてしまい帰ることもできず軟禁状態。動物には片っ端から嫌われる質で、どうしてもって言われたから引き受けただけだったんだ。俺前世で余程のことでもしたのかなぁ……
 寝てるから行けると思って急に触ったのは謝るから。触れなくていいから、せめて帰らせてくれ……。
 警戒、と言うか怒りというか。それすら通り越して殺気に思えてくる視線を受けながら、一歩近付き怒られて……を繰り返して今に至るわけで。

「あ、そういえば……」

 友人から教えられていたものの1つ。こいつが大好きなおやつの収納場所。テレビ横の棚、上から二番目……嗚呼、あった。
 よくCMやってる液体タイプの猫用おやつ。これでも駄目だったらもう成すすべがない。頼むからこっちに来てくれ……
 開けてそっと近づけるとゆっくり食べ始めた。

「……!!」

 此処まで近づけたのは初めてかもしれない。猫、可愛いな……。
 っと、感動してる場合じゃない。食べさせながら、ゆっくりと後退してキャットタワーのそばへ誘導する。あとは食べ終わったら扉に行かないで登ってくれることを願うしかない。
 しばらく無言で見つめられる。安全かどうか見定められてるようなかんじ。なんとなく圧を感じて視線をそらす。なんで俺は猫に負けてるんだ……。
 突然、興味を失ったかのようにキャットタワーへ登り眠り始めた。ようやく帰れる……
 無駄に気疲れしたが、猫と同じ空間に長いこと居られたのは少し嬉しかった、かな。

「じゃ、また明日。」

 ちらっと振り返りそう告げると、黄色の双眸が此方をじっと見つめていた。鋭い眼差しに見送られ、俺は友人宅をあとにした。


#16『鋭い眼差し』

10/16/2024, 8:54:50 AM