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『お金よりも大事なもの』

「ねぇ、おかあさん…にゅういんしちゃってごめんなさい」
娘が私にそう言った。
私は満足のいく応えを出せず声に詰まってしまって、それを見た彼女はホロリと大きな雫を落とした。
その透き通るような純粋はまだ齢十あまりのこの子の清いものだけを濾過しているようで美しさすらある。
頬を伝うそれに映る、これまでのこと。
この子がお腹にいた時から毎日話しかけ、生まれた時には喜びのあまり旦那と抱き合ったこと、旦那が家を出て行ったこと、中々お乳を飲んでくれず病院に駆け込んだこと、喘息を発症して病院に入院し始めたこと、小学校の入学式や運動会で踊れるように学校が手を尽くしてくれたこと、何度もクラスメイトの子が病室まで訪ねてくれたこと…。まだまだある挙げてもキリがない思い出がまるで走馬灯のように流れてきて首を振る。だめだ、まだこの子は生きなければ。
落ちる雫が陽光に煌き、ハッとする。
この子に心配をかけてはいけない、お金のことなんて気にしないで欲しいと言わなければならない。思い出してる場合ではないのだと。
「お金なんてそんなもの…気になんてしないでいいよ。あなたの為ならお仕事も更に頑張るしそれに」
あなたはこの世のすべてよりも大切な子よ。
安心させるように笑ってみせた。でも、上手くできてるかわからない。それでも愛しい娘、あなたのためならなんだって。

ふんわりと笑うあの子との思い出。

3/8/2023, 11:01:27 PM