【何もいらない】
満ち足りるということを一度知ってしまえば、そのあとは何もかもが物足りなくなるのだと思っていた。けれど、どうやらそうではなかったらしい。少なくとも、わたしの場合は。
だから、あなたがわたしに時折問いかける、そのたびにひやりとつめたさを覚えた。何か欲しいものはないかと静かに問う、その声音にあるのは純粋な憂慮なのだと知っていてもなお、わたしはいつだって答えに詰まった。
いいえ、なにもいりません、だいじょうぶ。ただそれだけを言うのに、どれほどの苦しみを積み重ねただろう。ほんとうに、何もいらなかったのだ。あなたがいればそれでわたしは満ち足りた。あなたさえ、いてくれるなら。それで良かったのに。
4/20/2024, 12:56:03 PM