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#3 泣かないで


きみの瞳から、ほろほろと涙がこぼれていく。
すくい上げるように指をすべらせても、留まることなく溢れていく。
透き通るような瞳が涙でぼやけて、白い頬の上を、次から次へと雫が伝って落ちていく。声もあげずに、ただただ静かに泣くきみは壊れそうなほど綺麗だったけれど、自分のことのように心が傷んだ。
泣いているきみより、笑っているきみを見ていたい。傷ついて悲しむきみなんて見たくない。

(――泣かないで)

喉元まで迫り上がった本音を、すんでのところで飲み込んだ。
声もなく泣くきみに寄り添って、ひたすらその涙を拭う。差し出したハンカチが湿って意味をなさなくなっても、泣
き続けるきみのそばに居る。
泣いているきみを見続けるのは辛い。笑っていて欲しい。泣かないで欲しい。それは紛うことのない本音だった。泣かないで、と、言いたくてたまらない。
でも、だけど。
そうやって泣きやんだきみは、いつ泣くというのだろう。
笑ってと言われたきみはきっと、誰もいないところで泣くのだろう。
誰に知られることもなく、独りきりで。
そんなのは、きみが泣くことよりもっと嫌だから。

だからぼくは、泣かないでという本音を、ずっと胸の奥にしまっておく。永遠に、ずっと。

12/1/2023, 9:43:57 AM