紅く熟れた紅葉の葉が、風に飛ばされ彼の頬へと触れた。
彼はその葉を手に取り、しげしげと眺める。
昨日の夜、彼女から話があると言われて来たはいいものの、待ち合わせ時刻になっても彼女はこない。
相変わらずの傍若無人ぶりに溜息を吐くと、彼は近くのベンチへと腰掛けた。
木枯らしが彼の体を冷やしていく。
彼女が来た時には既に待ち合わせから三十分が経過していた。
「ごめん、遅れちゃった」
「大丈夫だよ。それで、話って?」
「その……」
彼女は言いにくそうに言葉を区切ってから、別れてほしいの。と告げた。
「……え?嘘、嘘だよね?」
彼の言葉に彼女は小さく首を横に振った。人気のないこの公園で、この絶望を見る者はいない。
「僕の、僕の何が駄目?直すから。ちゃんと君好みになれるようにするからさ、だからーー」
「それがっ!その、あたしのために自分を消す貴方が嫌だ……」
彼女の強い言葉に暫く彼は言葉を失った。口を開いて何かを発そうとするものの、結局それは言葉にならず風に攫われていく。
「それだけだから、じゃあ」
「っ、待って!待ってよっ」
彼の制止など気にもとめず彼女は踵を返した。
秒速8メートルで心が離れていく。
彼女というパーツを失った彼の心には冷たい風が吹き込んで、より心を荒ませていく。
不意に彼の瞳から涙が溢れ落ちた。
それは誰に受け止められるでもなく地面に落ち、染み込んでいく。
紅葉がまた一枚彼の元へ舞い落ちた。
この紅葉もまた、誰かの涙を栄養に育ったのだろうか?
ーークソくらえだ。
彼は地面に落ちていった紅葉をスニーカーで踏みつけ、何度も何度もぐちゃぐちゃにした。
息が荒くなる。視界が揺れる。
それでも彼は構わなかった。
少ししてからハッと我に返って彼が足をどけると、地面には紅い何かが広がっていた。
スニーカーの靴裏にも付着したそれは彼の罪のよう。
彼女が好きなデザインだからと買ったものだったのに、彼が穢してしまった。
手の甲で涙を拭って、彼もまた帰路へつく。
今頃彼女は部屋で新しい男探しでもしているのかもしれない。
そう思えば思うほど心は軋んで、取り繕いようのない穴だけが残る。
彼女と別れてもう十五分はたった。心の距離は7,200メートル。今さら追いつけるわけもなく。
木枯らしに押されて帰る彼の足取りは重たかった。
1/18/2026, 6:04:28 AM