そこ

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三日月が消えかかっていた。細められた光はゆっくりと夜に飲み込まれ、あと数分もしないうちに見えなくなってしまうだろう。
今日が、最後。
これからは星空が広がるだけ。
誰もが知る月は飲み込まれ、夜は当分の間、星が輝くだけ。近いうちに太陽も溶けて消える。
それでも人間は生きていける。いつもと変わらない日々を過ごせるだけの技術を作り出していた。
だから学校でも街でも今夜は人類史に残る最大のショーだとお祭り騒ぎになっていた。その光景を見るたびに、そんな声を聞くたびに、ざらりとしたヤスリに内面を撫でられるような浅い不快感を覚えていた。
今、わたしはベランダにひとり。街の光を見たくなくて上だけを見ている。
月が消える。あっけなく、髪の毛のような光を残して、空は星だけになった。
イヤープラグをしていてよかった。きっと歓声があがっていただろうから。
月は消えた。太陽も消える。星はいつまで残っていてくれる?
いつかは、夜は無明の闇になる。乾いた冷たい風が吹いてきた。体が寒さに震える。もう部屋に戻らないと体調を崩してしまう。わたしは窓ガラスを開く。振り返り、空を見た。
「さよなら、だね」
本当にずっとこのままでいられる?

1/9/2026, 3:57:34 PM