おさしみ泥棒

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「あっ、ネコ」

 染谷はそう言って足を止めた。つられて視線の先を見れば、塀の上でぶち猫が尻尾を揺らしている。
 首輪をしていないが、野良だろうか。まるまると太っているし、毛並みもいいから、たぶんこのあたりに住んでいる人たちに可愛がられているのだろう。染谷が手を伸ばしても逃げない。顎の下を撫でられて、気持ちよさそうに目を細めている。
 こちらを振り向いて「お前も撫でろよ」と言う染谷に「俺はいい」と首を横に振った。

「制服に毛がつく」
「えー。こんなにかわいいのに」

 染谷はそう言うが、このふてぶてしい豆大福みたいなフォルムの猫をかわいいとは思えない。そもそも、俺は生粋の犬派である。
 デブ猫を撫でくりまわしている染谷を白々と眺めながら、例えば、と思う。もしも俺が四足歩行で、三角の耳が生えていて、ニャーと鳴く生き物だったなら。その手で頭を撫でてもらえるのだろうか。
 あまりに馬鹿馬鹿しいないものねだりだ。自分で自分に呆れて、俺は小さく笑った。塀の上の猫は退屈そうに、大きなあくびをした。

【テーマ:ないものねだり】

3/27/2026, 1:25:51 AM