猫背の犬

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追い風と共にやってきた「俺、結婚したから」は、鈍器みたいな衝撃を後頭部に与えてきた。それからすぐに痛みに似た嫌悪感が全身を駆け抜けていく。風よりも早く全身を犯す得体の知れない最低の正体は、絶望だってことをなんでか僕は知っていた。それでも受け止め難いものがある。頭でわかっていても、心ではなんとやらというやつだ、たぶん。内側から外側に走った透明な衝撃のすべては比喩で、実際の僕は無傷で綺麗なままだけど、やっぱり胸の中はずたずたに裂けて血が滲んでると思う。だって痛いんだ。胸の中にも、心臓の近くにも、存在しないはずの心が確かに疼いている。君へと振り返ったくせに、どうしてか僕は聞こえないふりをしてしまった。どうしようもなくてしょうがない僕を見つめて諦めたように笑った君は、あの朝と似ていた。青くて脆い、冬の朝。どこにも帰れない僕は、離れた場所から惨めにただただそれはそれは惨めにあの朝をうらめしく見つめながら生きていくしかできないみたい。

1/7/2025, 12:57:07 PM