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【セーター】

「そのセーター素敵ね、手編み?」

彼は頷き、はにかむ。はにかんでいるように見えている。何ともない会話。何ともなく感じたい会話。

>>走る思考

誰が編んだの?私以外の、誰が
聞きたいのはそこであって其れはとても重要で…
"私にとっては"重要で、そんな、そんな…
彼にとっての些細なことをどうか私にとっても些細なことにしてください!私にとってを彼にとってもにしてください!神だかなんだか誰か聞いてますか?!

『亡くなった祖母が編んだんだよ。』
「え、あ…そう……」

私たちは擦れ違う。
私の走りを止めたのは祖母の死という"彼にとっては"重要な出来事で私にとってはどうってことない出来事で、
ほかの女じゃなかった事に胸を撫で下ろす不謹慎さ、性悪さ。こんな女でごめん。
悴んだ指がチクリと痛む。もっと鋭い痛みをくれ。

私は素敵なセーターを編むことが出来ない。
小さく頷いて、吐く息の白さを睨んだ。


11/25/2024, 12:28:26 AM