白眼野 りゅー

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「どうしてこの世界は、こんなにも不公平なんだろう」
「雨の日に傘を忘れた程度で大げさな」

 僕の真剣な呟きを、君はたやすく笑い飛ばした。


【どうしてこの世界は、僕にばかり】


「でも、僕が傘を忘れた日にピンポイントで雨が降ったんだよ」
「そういうこともあるでしょ」
「さっきはトラックが跳ねた水がかかったし」
「それは災難だったけど」
「おまけに電柱にぶつかるし」
「不公平とかかなあ、それ。ただの不注意じゃない?」

 ほら、そうやって僕に苦笑いの表情を向けてくるのも、不公平だ!

「そんなこと言ったって、世界は変わってくれないよ」
「それでも嘆かずにいられないんだよ! どうしてこの世界は、僕にばかり幸せを集めてしまうんだ!」
「……?」

 あ、今度はキョトン顔。不公平だ!

「……傘、忘れちゃったんだよね?」
「おかげで君と相合傘ができた」
「トラックに水をかけられたし」
「おかげで君の優しさに触れられた。『大丈夫?』なんて素敵な言葉までもらえた」
「電柱に頭を思いっきりぶつけてたけど……」
「おかげで君の笑顔を独り占めできた。ああ、思い返すほどに不公平だ! 世界よ、僕が何をしたって言うんだ!」

 心から困惑した君の表情まで独り占めなんて、世界はどこまで不公平になれば気が済むのだろう。

「……この世界はって君は言うけど、君となら、どの世界でも楽しめそうな気がするよ」

 もはや不公平を呪う気すら起こらないほどに柔らかい笑顔で君は言った。

6/10/2025, 6:20:50 AM