「何が恐ろしかったのか、ようやく分かった気がする」
「恐ろしい? 何がです」
「·····あの男だ」
「貴方は彼を恐ろしいと思っていたのですか?」
「今考えれば、だ」
「·····そうですか」
「あの男が私にはいつも眩しかった」
「·····」
「私が持ち得ない全てを持ち、それでいて誠実で、決して驕ることは無かった男」
「貴方だって不実なわけではないでしょう。その方向性が違っていただけで」
「人の心の奥底をたやすく掬い上げる男」
「彼はそういうの、得意ですからね」
「私には出来ない事をいとも簡単にやってのける男」
「貴方に出来て彼に出来ないこともあるでしょうに」
「いつも·····光を背負っているように見えたんだ」
「光、ですか」
「王宮でも、戦場でも、どこで見てもあの男は光を背負っていた。·····宵闇の中でさえ」
「宵闇·····」
「あの男が背負う光が眩しくて、恐ろしかった」
「そうでしたか」
「光を背負って立つあの男の、顔がまともに見られなくて、どんな表情をしているのかが分からなくて··········恐ろしかった」
――笑っているのか、嘲っているのか、見下しているのか、哀れんでいるのか。それともそのどれでもないのか。
逆光に目を細めていたようなものだ。
「·····彼はきっと、貴方が背負っている光も見つけていると思いますよ」
――そうなのだろう。だが私には、それこそが恐ろしい。
これは誰にも言えない秘密。
END
「逆光」
1/24/2024, 12:24:15 PM