愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐※SE無し



「今日で俺達も卒業かー…」

まだ肌寒さを残しながらも、暖かな日が差し込む三月。
芽吹きのときを今か今かと待ちわびる桜の木の下で、迅と俺は卒業証書を眺めていた。

「てか嵐山凄い人気だったね」

「ん?あぁ…」

迅の空色の瞳には、一つもボタンが残っていない俺の制服が映っていた。

「何が何だかてんやわんやだった」

「だろうな」

卒業式が終わった瞬間の女子達の気迫はこの先中々忘れられないだろう。

「第二ボタン、誰がゲットしたんだろうね」

少し眉を下げ不満気に呟く迅が、ボタンの無くなった胸元を見つめてくる。

「……もしかして、迅も第二ボタン欲しかったのか?」

「んん!?」

あれ、ハズレだったか。ぼんやりとそんなことを考えていると、顔を背けた迅が小さな声で何かを言っている事に気がつく。

「………から…いい」

「えっ?」

「お前本人はもうおれのだから、いい」

「…………………………えっ」

手の力が抜け、地面に卒業証書の入った筒を落としてしまう。全身の熱が一気に上がった気がした。

「………………」

「………………」

無言の二人の間を少し冷たい風が吹き抜ける。
最初に無言を破ったのは顔を真っ赤に染めた迅の方だった。

「なんか言えよ!恥ずかしくなってきたじゃん!!」

「じ、迅が急にあんなこと言うからだろ!」

「なんだよ!ほんとの事だから言っただけだし!!」

「ええっ!?」

思いが通じて早数ヶ月。俺がなけなしの勇気を振り絞った告白の時でさえ、飄々としながら驚きもせず『んじゃ付き合うかー』的な軽さだったくせに。

ぜえぜえとお互い言いたいことを言い切り、またもや無言の時が訪れる。
しかし次に沈黙を破ったのは俺の方だった。
心に秘めていた一抹の不安が、言葉となりこぼれ落ちる。

「ずっと…俺ばっかりが好きなんだと思ってた…」

「えぇ…なんでだよ」

「だって好きって一回も言ってくれないじゃないか」

「……あっ」

今さっき思い出したかの様な声に、俺は不機嫌を表すように顔を顰める。本当に忘れていたなこのぼんち野郎。その様子を見た迅があたふたと言い訳を考える姿が少し可愛くて、思わず笑ってしまいそうになる。

「嵐山」

何やら覚悟を決めたらしい迅がこちらを見つめてくる。その顔はいつも通りの顔色に戻っていて、恥ずかしさなんて微塵も感じていないような表情をしているけれど、視線をずらすとほんのりと耳が赤いことに気がつく。空色の瞳が微かに揺れたかと思うと、小さく息を吸う音が聞こえた。

きっと今の俺は、期待を隠しきれていないだろう。
ずっと聞きたかった言葉を聞き漏らすまいと、俺は静かに耳をすました。

3/1/2025, 1:01:57 PM