安らかな瞳
曇りガラスのような瞳は、曖昧で冷たい。僕を溶かすように咀嚼しているのだろうか、それとも遠くへ突き放しているのだろうか。答えはたぶん……
彼女が視力を失ったのは大学生になったばかりの夏。徐々に見えなくなる中、彼女は殆ど変わらなかった。相変わらずその辺の学生よりも真面目に大学に通っていたし、毎日派手に着飾ってスラリと背筋を伸ばして歩くのだ。あの日、転んだ彼女を助けた日、その笑顔に僕は惚れてしまった。今も惚れている。ずっと、永遠に君から目が離せない。こうしてどれだけ老いても。彼女は目を開いたまま逝った。その瞳は少女のように純粋で、はっきりと僕を映していた。少なくとも僕にはそう見えた。
あの子はきっと、死ぬその時にすべてを見たのだ。
残酷で、曖昧で、不完全で、寂しくて、
鮮やかで、あまりにも綺麗なこの世のすべてを。
3/14/2024, 11:33:05 AM