名無しの夜

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二十歳

式典のお知らせは、母に破り捨てられた。
「あなたには必要ないでしょ」と。

一方で、高価な反物で着物を作ると言う。


もう逃げられない、と思った。

だから何もいらない、何もしないと宣言した。

「精神的に『大人』になったと感じた時に、お祝いしてもらうから」

そう笑ってみせたらやや不興げに、それでも母はこちらの意を飲んでくれた。

おそらくは。
精神的に『大人』ではない、つまりは『子供』のままで、母の手の内にあると思ってくれたのだろう。


逃げられないと思いながら。

——絶対に離れなければ、と自覚した瞬間だった。



「夕御飯、どうする?」
「ん〜。式典終わったらみんなで飲み行くし、そん時食べるからいらねーかな。○○ン家泊まる予定だし」
「そっか。飲み過ぎないようにね。何かあったら連絡してね。パパに迎え行かせるから」
「はいよ」


真新しい、見慣れないスーツ姿。
既成品外の体格ゆえ、仕立てるしかなくて高くついたスーツだけれど、良く似合っている。

行ってくる、と歩き出した立派な背中に。


かつて諦めた私の過去も、ほんの少し預けてしまったのは、内緒だ。

1/10/2024, 3:59:33 PM