正直言って僕は平凡なわけで。多数の中で埋もれる存在で。
周りに特別な繋がりもないし、居場所になるような人がいるわけじゃない。そんなストーリー性も何もない僕だけど、僕なりの生き方があるわけで。
僕の中のポリシーは二つ。
一つ、どうにもできない窮地に陥って、本当に全部どうでもよくなったら死んでいいとする。
二つ、後悔しない為じゃなくて、頑張らなくていいように頑張ること。
あの頃の僕は特に、何をするにも恐ろしくて、全てが不安だった。だから毎日何十回でも“どうせ死ぬから”って唱えて、ずるずると持ち堪えてきた。
どうやったって生きていればしなくちゃならないことがあって、それがたとえ自分にはできなくたって、できるできないじゃなく、やるかやらないかの基準がほとんどなんだから。
僕が動けなくなるのは、動いたことにより失敗したりうまくいかなかったら、耐えられなかったから。その度に、耐えられなくていいや、死んじゃえ。って感情を逃がしていた。
朝方の散歩が好きだった。
車ひとつ通らないような、夜中の狭間の朝焼け空。
季節によっては濃い霧が呼吸を重くさせたけど、普段の呼吸より遥かに澄んでてて、息がしやすかった。静まり返った淡い空気が、僕の存在すらその淡さでぼかしてくれる気がした。
住宅街を抜けて何もない道を歩く。何もないけど、僕にとってはたくさんあった。
散歩の為に早く眠って、昨夜のかけらの星が沈殿したような、しっとりした温度で目を覚ます。静かに顔を洗って、水を飲んで、ジャージに着替えて、玄関ドアを開け、僕の空気に触れる。
でも、いつしか崩れていった。
夜には眠れなくなって、空気の温度も感じられなくなった。
目を開けていても何も見ていなかったからか、記憶に残っているものがほぼない。
起きているのか寝ているのか、自分でも曖昧だ。
身体が沈んで、自分の身体じゃないかのように重く、動かせない。
トイレに向かうのに立ち上がり、数歩進むのですら、姿勢を保てない。目眩すら引き起こして、トイレに着いた頃には息切れが酷い。自分の呼吸の荒さが目眩と吐き気と重さを混ぜ合わせていく。便座には座らず崩れ落ちてしたのは、排尿じゃなく嘔吐だった。
動ける気がしなくて、そのままトイレの床で蹲って、陽が落ち一日が終わるまでただじっと待った。いや、待っていたというより、時間の流れが待ってくれなかっただけだ。
こんな日々を過ごした地獄の数年間。
こんなことになるまで、何があったのかよく分からない。
産まれてきてからの自分を振り返っても、考えれば考える程、何を原因として取ればいいのか分からない。
ただ、どうにも何もできなくなった。その表れは唐突だったけど、本当に急にそうなったってわけでもないだろう。徐々に、徐々に崩れていって。
日常生活を送れるようになってから、途端に周りから、社会からの要求が降りかかってきて、生きているだけじゃだめだなとしみじみ思った。
自分で自分をコントロールできず、口から出るのは相手を困らせる湿った陰気なことや、何に向けて言っているのか自分でも分からない汚い罵詈雑言ばかり。
人と会って、言葉を発して、やりとりをするたび、自分の中で何かが削り落ちていった。
こんなことが言いたいわけじゃないのに。今話している自分は誰なんだ?これが僕?
嫌にべっとりとした汗でぐちゃぐちゃになっていく。
僕、今どんな顔してる?
毎回そんなことを思っていた。
7/31/2025, 5:06:33 PM