ヒロ

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手持ちのカードは俺が一枚で、相手が二枚。
一騎討ちとなって長引いたババ抜きもここまでだ。
今度こそ、あと一枚カードを引けば、勝負は決まる。
右に左に、指を泳がせて反応を見る。
友人はポーカーフェイスを気取って無反応だ。小賢しい。
仕方がないのでじっとトランプの柄を見つめ、心を決めて右の札を取った。
――つもりが、抜けない。
もう一度引いてもびくともしない。
おい、トランプちぎれるぞ。
「本当に、それで良いのか?」
指先に力を込めたまま友人が凄む。この世の終わりのような必死の形相に悟った。
なるほど、残った方がジョーカーか。往生際の悪い奴め。
「いいよそれで。これでおしまい、だっ!」
一瞬力の緩んだ隙に、カードを抜き取る。
裏を返して見えたのは、

――ジョーカーだった。

「うっそ何で!」
「よっしゃー! 演劇部なめんなよ、恐れ入ったか!」
まんまと策に嵌まった俺を嘲笑い、友人は上機嫌で悪役さながらに煽りを入れる。
「さあ、かかって来い!」
「いや次カード引くのおまえだから。それこっちの台詞だから」
逆転した立場に焦りながら、二枚になったカードを念入りにシャッフルして差し出した。
奴のような演技力は自分に無い。
だから、余計なことはせずに顔を伏せて動きを待つ。
こうなったらもう運に任せるしかない。

さあ、勝負の行方や如何に。いざ!


(2024/04/04 title:020 それでいい)

4/5/2024, 7:29:07 AM