『平穏な日常』
いいだろうな。
朝日が心地良く目を醒ます。
温かな味噌汁の香りに誘われてリビングに向かい、椅子に深く腰掛ける。目の前には仄かに湯気の立つ白いお米に熟れた果物、一際目を引く黄色いたくあんに、白菜の味噌汁に。
家族揃っていただきます、と手を合わせる。
惰性で点けた画面の向こうからは今日の天気と共に1日の命運を決める占いが流れており、その日の自分の運勢が一番だったことになんとなく嬉しい心地がして口元が綻ぶ。
忙しない家族の足音をBGMに、ゆっくりと支度をして家を出る。扉を開けた時にパッと飛び込んで来る光の、あのなんとも言えないそれが案外、嫌いじゃなくて。
学校に向かい、窓際の席でなんとなく授業を受ける。
帰宅時には通った事のない道を探索したり、本を買ったり、寄り道なんてしながら帰る自分を、そっと見守るように夕陽を背負ったりして。
扉を開ければまたいい匂いがして、手も洗わずにリビングへと向かう。今晩はもくもくと湯気の立つ白菜のお鍋。
それに口許が緩み、遅れてただいまって言う。
顔と手を洗って、椅子に深く腰掛ける。
本棚を作る。本でいっぱいになったらまた新しい本棚を作る。何をしたっていい、平和な世界。
いいだろうな。
_そう水底に消えたまちを見て、もう訪れることの無い
平穏な日常を思ったら、温かな何かが頬を伝った。
3/11/2023, 1:39:14 PM