『こうなることは、最初から決まってた』
なんてことを言われて、腹が立たない者がいるのか?
『お前の努力は全て無駄だったんだよ』
そう、言われているのも同然の言葉を投げられて、はい、そうですか、って納得できるわけが無い。
部下たちを、臣民を目の前で殺されて、無駄な努力でしたね、だと?
ふざけるのもいい加減にしろ!
全くもって腹立たしい結末だ!
王よと傅かれ、国を民を頼むと、家族を恋人を頼むと、口にはされずともわかっていた。
自分はこの国を守るため、民を守るために存在する。
先王亡き後、先王の記憶を引継ぎ生まれてきた自分の存在意義は、この国の民を守ることだった。
我が国の民は見目があまり良くないが、人は良い奴ばかりだ。
まぁ、あまり考えていない、とも言えるのだがそこもまた良いところだろう。
ただこの見た目が、人間達には恐怖を与えるらしく、いつしかそれは敵意に変わった。
我等が何をせずとも奴らは攻めてくる、此方はそれに応戦するしかなく、結果、望まぬ戦争が始まり泥沼と化した。
日々失われていく民の命、そして子らの笑顔。
元より望んで始めた戦争ではない。
多大な犠牲を出してまで、続ける必要のある戦争だとは思えなかった。
故に我らはその地を捨て、大陸の西側、人間の住めない土地へ引きこもる事にした。
それから長い間、我々は平和な時を過した。
民は相変わらず見目は良くないし、あまり深く物事を考えることはしないが、よく笑うし、よく働く。
前の土地より広いこの地は、人の手が入っていない未開の地であった。
土地は痩せ細り、畑をするにも、牧畜をするにも向いていなかった。
我々は長い月日をかけて土地を開拓、改良し、街を畑を作り、国の礎を成した。
少しずつ発展していく街を見るたび、子らの笑顔が増えるたびに己の選択が過ちではなかったと実感する。
このまま平和な時間が続くと、そう、思っていたのだが。
「勇者?」
「はい。そう、名乗っているようです」
「そいつが何故、我が国に?目的は?」
「わかりません」
「⋯⋯追い返せ」
「畏まりました」
二度と人間と戦争はしたくなかった。
故に人間の領地と接する場所は、敢えて開拓していない。
荒涼とした大地や鬱蒼とした森をそのままにしてある。
そこには様々な魔物が巣喰っているため、そう簡単には我が国へ足を踏み入れることは出来ないはずなのだ。
だが、最も南に位置する街の近くに人間が現れたと連絡が来たのだった。
勇者の報告を聞いてひと月も経たないうちに、人間の軍隊が攻めてきた。
森の一部を焼き払い、軍隊が進めるよう整備していたらしい。
近くの街が攻められ、一人残らず殺されたと報告が入った。
そして、その報告はひとつではなく複数同時に入ってきた。
国境付近は常に警備させていた、それなのに何故奴らの動きを知ることが出来なかったのか。
その答えは、勇者と名乗った一行が城にまで入ってきた時に知ることとなった。
「幻術?」
「はっ。森を焼き払い道を作っている間、ずっと幻術を張っていたらしく、我々は気付けず。申し訳御座いません」
「待て、いくら幻術を使ったといっても、あの数だ。一箇所や二箇所の話ではない。少なくとも二十、いや三十近い場所全てに幻術を張っていたというのか?」
「はい。勇者一行の中に魔術に長けた者がいるらしく」
「⋯⋯そうか。お前たちは下がれ」
「陛下?」
「奴らの狙いは私なのだろう。お前達が無駄に命を散らす必要は無い」
「はははっ、カッコイイねぇ、魔王様」
王の間に、明るい男の声が響いた。
開け放たれたドアから入ってきたのは、まだ若い、人間の男。
右手に大層立派な剣を持ち、白と金の鎧を着込んでいる。
背に流れるマントは真紅、そして左手には、近衛の首があった。
「貴様⋯⋯」
「それと、俺達の狙いはあんただけど、王様たちの狙いはこの国だからさ、皆殺しって命令されてるんだ」
「何、だと?」
「ここって元々人が住めないような荒れた土地だったんでしょ?それが今じゃこんなに豊かだ」
「あっちの国は好き勝手し過ぎて、草一本生えないような土地ばっかりなのよ。だから豊かなこの土地が欲しいんですって」
「でも欲しいのは土地だけだ。お前らは必要ない」
次々と部屋に足を踏み入れた者達が発した言葉が私の理性を奪っていく。
自分たちの勝手で、我々に戦を仕掛け、自分たちの勝手で、土地を痩せさせ、また自分たちの勝手でこの土地と民の命をも奪うというのか。
「あー、別に怒ってもいいけど俺らに当たんないでね。俺ら関係ないから」
この状態で関係ないと言い切るのか。
人間達も身勝手ではあるが、お前たちも同類だ。
「じゃぁ、さっさと終わらせて帰ろうぜ」
「だな」
「了解」
「はーい」
そう、言い切ると奴らは動き出す。
部屋にいた者達をいとも簡単にあっさりと切りつけ、その命を狩っていく。
ひとりまたひとりと、膝をつき倒れ込みそのまま動かなくなる。
「やっべ、超弱いじゃん」
「キャハハ、逆逆、うちらが強いんだって」
手が、足が、体が、玉座に縫い付けられたように動かない。
次々と事切れていく臣下達の最後の姿が見開いたままの眼に映り込む。
声のひとつすらあげられず、ただ失われていく命を見ていることしかできず、何が王か。
「さてと、さ、残りはあんた一人だ、魔王様」
近付いてきた勇者が、剣に着いた血糊を振り払い切っ先を私の首元に向ける。
相変わらず体は動かず、声も出ない。
「無駄な抵抗はやめた方がいいよ、って言っても動けないか」
「ねぇ、早く終わらせて帰ろうよ。スイーツ食べたい」
「ほんと、早くハンバーガー喰いてぇ」
「俺、カレーがいい」
「いや、ここは寿司一択だろ⋯⋯じゃなくて。はぁ、さっさと終わらせるか。じゃぁな、魔王様」
指先一つ動かせず、声すら出せずに終わるのか。
「こうなることは、最初から決まってたんだよ。だから恨むなら俺達じゃなくて、神様を恨んでね」
首筋に感じた熱い痛み、回転する視界、目の前に広がる血溜まり。
勇者が何か喋っているようだが、もう私には聞こえなかった。
「という、記憶がある。よって、今度の私はこれを回避すべく、さっさと西へ移動し人間の土地との境界をガッチリ固めようと思う。皆、宜しく!」
「はっ!」
王の間にずらりと並んだ臣下達が一様に膝をつき、頭を垂れる。
これが上手くいくかどうかは分からないが、取り敢えずやれる事はやってやる。
神々の暇潰しに自分達の命をかけなければならないのならば、何度でも足掻いてみせる。
「三一回目のやり直し、今度は上手くいくかどうか⋯⋯」
なぜ記憶を引き継いでいるのか不明だが、使えるものは使わせていただく。
後で吠え面かくなよ、神々よ!
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(´-ι_-`) 魔王様、弱すぎてゴメン
(´-ι_-`) 書いてた途中で消えた⋯⋯神様ヒドイ(;´Д`)
8/8/2024, 6:48:30 AM