君と僕
隣に座る君の白い頬に、風に靡いた艶やかな黒髪が一房こぼれた。思わず見惚れていると、なあに、と気の抜けた声が返って来たから、何でも無いよ、と返す。
「桜が散ってしまうね」
この川沿いの花見の名所はもう盛りを過ぎてしまって、お花見に来る人もまばらとなっている。斜面の下を流れる川を、散りゆく桜の花弁が薄桃色に染めていた。
春を示す桜が花開いては散っていく様に、世間も出会いと別れの季節が訪れていた。二人の関係にも終わりの気配が近づいている。この関係に今まで名前などなくて、ずっと曖昧なまま、虚しく別れはやってくるのだ。それでは、君と僕の関係は一体何だったのだろう。
「綺麗」
強い風に煽られて、花吹雪が空に舞い上がる。青空に白い波が立った様に、美しい光景だった。
桜は好きだ。とても綺麗で、そして見ていると少し切なくもなる。
「どうせ散るならいっそ咲かないで欲しい。咲くのだったらずっと咲いていれば良いのに」
「駄目よ」
笑う君の声は柔らかくて、耳に心地良い。
「桜は散るからこそ美しいのに」
君がそう言うなら、いつかこの関係も良いものだったと、思える日も来るのだろうか。
川を流れゆく桜の花びらが行き着く先はどこなのだろうかと思いを馳せる。隣で君は静かに微笑んでいた。
4/11/2025, 12:47:34 PM