『夜景』
夜道を走る車が電灯の下を通る度に窓には暗い景色とそれを見るともなく見つめる自分の顔が現れては消える。運転する父も助手席の母も後ろに乗る私も何も話さず、今さっきまでいた街から逃げるために離れる最中だった。
夜逃げをするのは初めてではない。だから最初の時は友達ともう二度と会えないかもしれない悲しみで泣いては怒られていた。今の私はまたも夜逃げに踏み切るしか無くなった親に恨みのようなものを募らせ、おかしな時期に転校してきた自分に優しくしてくれた人や、邪険に扱ってきた人のことを思い出し、その人たちとももう二度と会えないのだろうと諦めを抱いた。
遠ざかっていく街はあたたかな生活の灯りがいくつも点っていてきれいだった。どうして遠ざからなければならないのだろう、と最初の夜逃げのときに思ったことをまた思ってしまった。
9/19/2024, 3:26:01 AM