1【ごめんね】
雨音が鳴り響く五月下旬。
僕は学生時代のある人を思い出す。
完璧主義で文武両道の彼はずっと僕の憧れだった。
たぶん妬んでもいた。それは自分でも分からない。
でも愛とか、恋とか、気づかないような彼だった。
シャボン玉みたいに流されるそんな彼だった。
僕はそれに優越感を抱いていた。
でも違うんだ。「そっか」と漏れた声、雨漏りの音。
彼にも愛する人はいるんだ。
勝てるわけない。彼と同じ好きな人なんて。
そう、あの時言われた一言は今でも胸に刻まれている。
『――――。』
5/29/2024, 1:18:58 PM