言ノ葉

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【怖がり】

私の妹は怖がりだ。

しかし、臆病ではない。

だからこそ
自分の好奇心の赴くままに動き、
その結果怖がって帰ってくる。

どういうことかわからないだろう?
あぁ。私にも分からない。理解が出来ない。

そろそろ、その猪突猛進ぶりをやめたらどうだ?
と軽く進言してみたが、まあ結果はご覧の通りだ。

私の忠告など聞きはしない。

いや、聞きはする。
咎める度にとてもいい返事がかえってくる。
しかし治ったためしは今のところない。

全く、頭の中が全部筋肉になってしまったせいで
脳みそのスペースがなくなってしまったに違いない。

そこまで鍛えなくていいと私は思うんだがね。
今の言葉では[脳筋]などと言うんだったか。

まあそんなこんなで私は妹の猪突猛進ぶり、
もしくは[脳筋]振りに振り回されてる、という訳だ。

ほらご覧?
今日も今日とて半泣きの妹が帰ってきた。

「えぇええええん!!!
なんでついてきてくれなかったの、
こわかった、こわかったあああああ!」

いや半泣きではないな。号泣だこれは。

全く、思い知ったかね?
いつもはついて行ってやっているが、
今日はついて行かなかった。

いつまでここにいられるか分からないからね。

私のベッドに縋り付いて泣く
妹の頭をペしっ、と軽くはたいた。

「本当にお前ってやつは。
私がついていないとわかっていながら
自分の好奇心の赴くままに動いたね?」

危なっかしくておちおち向こうに行けやしない。

47日過ぎたのにここにいるのは私ぐらいだぞ、妹よ。
いや、確か友人も危なっかしくて離れられないと
嘆いていたな。類は友を呼ぶ、と言うやつか、
朱にいれば朱に染るというやつか。

「いい加減、兄離れしなさい。」

今を生きる妹に、過去の私の声は届かない。
だからここに居る、そう伝えるために
泣きながら私の名前を呼ぶ妹の頬を
いつも慰めていたときのようにぺろりと舐める。

妹は頬を押さえて、目をぱちくり、と瞬かせる。
それからまた目から一筋涙を溢して笑った。

嗚呼、全く手が掛る。

最初はお前の方が姉だったのに。
いつの間にか私たちの立場は逆転していた。

雷を怖がる私を自分も震えながら撫で、
宥めていた姉はいつの間にか外に出て
雷よりも怖いものを覚え、妹になったらしい。

家に帰ってくる度に泣いていた妹を
私は家で待っていることしか出来なかった。

まあだからそうだな。

お前が私以外の心の拠り所を見つけるまでは
仕方ないから、ここに居てやる。

あとは、虹の橋の向こうでお前を待っているよ。

だから、私が安心できるほどに
頼り甲斐がある素敵な人を見つけてくれ。
そのあとは、ゆっくり、ゆっくりして迎えに来いよ。

いいな?いつもの通りに猪突猛進した結果
すぐに迎えに来たらまずはパンチだからな。

そう言いながら、
目からぽろぽろと雫をこぼす妹の横に
伏せして座れば、妹はようやく涙を拭って笑った。

嗚呼、全く。本当に手が掛かる。

そう言いながら揺れ出すしっぽは私よりも雄弁だった。








3/17/2024, 12:06:30 AM