『願いが1つ叶うならば』
「大丈夫ですか?」
夕暮れ時、喧騒の駅構内。雨に濡れた靴を滑らせ、転んだ私を心配して男性が声を掛けてくれた。…あ、はい、と答えながら慌てて立つと、紙袋の中身が見事に散乱している。
「手伝います」
またも救いの手を差し伸べる男性に申し訳なさと派手に転んだ恥ずかしさで、落ちた物を拾い集めながらどうでもいい事を喋りまくった。
「そうですか、県外から出張で。帰るまでにまだ時間が掛かりそうですね。お気を付けて」
そう言う彼にお礼を言うと私は新幹線に乗り込んだ。が、何故か気持ちが落ち着かない。
突然、あっ…と思い出した。ホクロだ!
彼には首元に3つ並んだホクロがあった。
それは昔見た写真の子とそっくりの。
私が生まれて間もなく離婚した母。幼い頃から、明るい母が時々隠れて悲しげに見ている写真があることを知っていた。
『雅也 三歳』と裏に書かれたその写真は首元に3つホクロが並んだ男の子が写っていた。聞いたことは無いけれど、何となく感じる自分の兄の存在。もしかして、さっきの彼は…。
神様、今度私はまたあの駅に行って来ます。どうしても彼に会って話しがしたいのです。なのでお願いです。もう一度、どうかもう一度、彼に会わせてください。
3/11/2025, 6:00:21 AM