わをん

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『岐路』

生まれた時から一緒の双子の兄。何をするにもどこに行くにも一緒だったので、同じ学校に進学するのも同じ部活に入るのも自然なことだった。
練習前のストレッチを二人一組でしているときにふと気付く。こうやって背中を押すのも押してもらうのも今年の秋が過ぎれば終わってしまう。年が明けて春になれば、卒業した後それぞれの進路によっては二人一組だったものは少しずつ分かたれていくのかもしれない。
「やだな」
「えっ、何が」
「なんでもない。……交代して」
「あっ、はい」
ストレッチが終わってからも兄はこちらを気にしていた。
部活が終わって一緒に帰る道すがら、兄が口を開く。
「今日言ってたやだな、って今の話?これからの話?」
考え方の癖を知られているせいで自分が何に悩んでいるかを概ね感づかれているようだった。
「……これからの話」
「じゃあ、今考えなくてもよくない?」
「そうなんだけど」
俯いて歩みが止まる。自分は兄から離れることにとても抵抗があるのだと自覚した。
「でもさ、今はそうなってないんでしょ」
「うん」
「これからに向かう途中に変わっていくかもしれないじゃん」
「そう、かな」
「そうだよ」
悩みの中身を知らない兄がぽんと肩を叩いて笑う。いずれ訪れる岐路が遠ざかるわけでもないのに、それで前を向けてしまえる。
「帰ろう。腹減ってしょうがない」
兄が先を歩きはじめるので、止まっていた足が歩きだしてふたりが並ぶ。悩みは解決してはいないけれど、そんなに深刻に悩むことではないのかもしれないと思い直せるようになっていた。
「なんかよそんちからカレーの匂いめっちゃする」
「いいな。うちも今晩カレーだったりしないかな」
心なしか足早になった兄に負けじと早く歩いた。

6/9/2024, 2:55:38 AM