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幸せとは


幸せとは、一体何なのですか。
その答えを知るために、旅人は旅を続けた。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、ある国の王様は言った。
「幸せ? そんなもの金がすべてだよ。お金さえあれば、この世は上手くいくようにできているんだ。ほしいものは何でも手に入るし、お金は裏切らないからね」
やけにきらびやかで、だだっ広い謁見の間の玉座に座る王様はそう笑っていた。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、とある国の老夫婦は言った。
「幸せ、ねぇ。そりゃあ、愛ですよ。愛しい人と結婚して、かわいい子どもたちにも恵まれて。愛がなけりゃ、むなしいだけ。愛さえあれば、何だって乗り越えられる」
ベンチに座る老夫婦は手を繋ぎ、そう微笑み合った。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、とある国の働き者は言った。
「幸せ、かぁ。何だろうな。こうして働けてることかな。誰かのために何かするって案外悪いことじゃないぜ?」
働き者は時計をちらりと確認して、じゃあ、とどこか楽しげな表情で足早に駆けて行った。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、とある国の自信家は言った。
「うーん、そうだなぁ。自分のために生きることかな。自分の幸せがやっぱり一番でしょ? だから、誰かに何かするよりも自分のためになることをした方が得じゃないかなぁ」
芯の通った声で自信家はそう笑った。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、とある国のハウスキーパーは言った。
「そうですね、幸せとは誰かのために尽くすことですかね。主人である彼らのために尽くし、職務を全うすること。彼らのためなら何だってできます」
遠くから呼ぶ声にハウスキーパーは返事をして、嬉しそうに彼らの元へと戻っていった。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、とある国の空想家は言った。
「幸せぇ? そうだなぁ。好きな場所で、好きなものを食べて、好きなことをして、好きなときに寝る! 私はね、お花畑で―――」
そう夢を語る空想家の目はキラキラと輝いて、話が終わるまでずっと笑顔だった。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、とある国の現実主義者は言った。
「幸せ、難しいことを聞くね。それに答えのない問いだ。一人ひとり感じ方も違えば、生き方も違う。育った環境も、経験も、何もかもが違う中で、一つの答えなんかない。それでも君はその問いを問い続けるのかい?」
現実主義者はどこか冷めたような瞳で、旅人を見つめ、口元には笑みを浮かべていた。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、とある国の痣だらけの少女は言った。
「愛されることだよ。別に皆からじゃなくたって、いいけど。誰にも愛されないのはさ、心が痛いんだよ。寂しくて、辛くて。誰かから愛されたら、きっと幸せになれるよ」
震える声でそう言った少女は泣きながら笑っていた。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、とある国の子どもは言った。
「しあわせ? たぶん、それはふこうじゃないときのことをいうんだよ。うれしかったり、たのしかったり。かなしいとか、そういうのはなくて、みんないっしょでなかよくしてるとき!」
ぴょんぴょんと跳ねながら、体いっぱいで表現するその子どもは笑っていた。

「幸せとは、一体何なのですか」
旅人がそう問えば、君はこう答えた。
「幸せとは、―――」

1/4/2023, 12:50:18 PM