✳君からのLINE
『大丈夫だよ、私は絶対にあっちゃんの味方だよ』
高校生だった頃に、親友から貰った嬉しいLINEだった。
そして現在、私は異世界で悪女として囁かれる存在となっている。
「⋯⋯あら?ヴェルテ伯爵様の隣にいるのは⋯⋯どなたですの?」
王宮舞踏会にて、悪女に相応しい綺羅びやかな真紅のドレスを着飾ったアリシアは不審に思い、ヴェルテ伯爵に声をかけた。
隣の女は露出の多い淡紫のドレスを着飾り、伯爵に腕を絡めて幸せそうに微笑んでいた。
伯爵は一瞬しかめた顔をしたが、渋々と口を開いた。
「アリシア様、彼女は私の妻になるサリーと申します。今日はサリーが舞踏会に参加したいとのことで連れて来ました」
それを聞いたアリシアは、女を上から下に眺めたあと、小さく鼻で笑うと伯爵に軽蔑の眼差しを向けた。
そう、この伯爵にはナタリー婦人という妻がいるにも関わらず、サリーという女を『妻になる』と強調し、不倫を宣言していたのだ。
そして女は、鼻で笑われたことに笑顔を消しこちらをキツく睨むが、悔しそうに下唇を噛んでいるだけだった。
言い返したくとも自分は公爵であり、アリシアよりも身分の低い者は話しかけられるまで、口を開けない社交界の暗黙のマナーである。
アリシアは不敵に微笑むと、女を無視して伯爵にそういえばと、話しかける。
「そうそう、風の噂でヴェルテ伯爵は白い小さな花が好きだとお聞きしました。確か花は⋯⋯スノードロップ。寒い地方に咲く可愛いらしい花だとか」
「え、ええ、商人から初めて花を見たときにひと目で気に入りましてな、このサリーも気に入って沢山欲しいとせがむものですから、沢山買ってしまいました」
アリシアは、ああやっぱりこの男はゲスで、女も共犯のクズだと再確認してしまう。
何を隠そう、スノードロップは毒花なのだ。
社交界で忽然とナタリー婦人が姿を消して、早2ヶ月。
婦人がどうなっているかは分からない、でも良くない状況なのは確かだろう。
「まあ、そんなに沢山。ヴェルテ伯爵様ったら、お優しいですわ」
チラリと視界に映る女は、伯爵に甘えるように擦り寄っていた。
伯爵もまんざらではない様子に、表情筋を笑顔にしたまま、内心では痛いものを見る目で見てしまう。
婦人はお気の毒だが、私としてもこれ以上関わるのは面倒なので、さっさと離れることにした。
「そういえば、まだ王族の方へご挨拶に伺っておりませんでしたわ、失礼いたします」
さっと離れていくと、不意に声をかけられた。
「アリシア嬢」
いつの間にか側にいたのは、この国の第一王子、ディラン殿下だった。
9/16/2024, 2:02:55 AM