『浮遊』
わたしが『わたし』という存在を思い出したのは、わたしに向かって手を合わせている和樹(かずき)に気づいたときだった。
夕焼けが雲を下から照らして、空は満開の桜のようだった。
(さくら...... 春...... 学校...... 和樹......)
わたしは連想しながらわたしを思い出そうとする。
(和樹...... 学校...... 通学路)
そうだ。
わたしは手を合わせている和樹の横にいつのまにか立っていて、汚れが目立ちはじめた花瓶と、それに生けられた真新しい仏花の意味を考えていた。
「ごめん」
和樹がポツリといった。
(そんなことないよ)
応えようとしたけど、声の出しかたがわからない。
わたしが庇わなかったら和樹も......
続けようとして記憶が跳ねた。
自分の手を見ようとすると、視界ばかりがぐるぐる動いて、自分自身の在処(ありか)がわからない。
わかるのは、わたしはもう「わたし」で亡くなっていることくらいだ。
(なぁんだ)
わかってしまうとどうということはない。
(わたし、死んじゃったのか)
和樹が立ち上がった。
彼は何事もなかったように歩きはじめた。まるでわたしのことなど忘れてしまったかのように。
(行かないで)
遠くなっていくその背中に、わたしは手を伸ばした。もう存在しないはずなのに、手を伸ばす感覚だけはまだ残っていた。
コンドハワタシヲタスケテヨ!
彼がわたしを振り切ると、再び意識がぼうっとなって、目に映る光景の意味が停止していく。
ワタシモtureteixtuteyo......
わたしは今まで立っていた場所を見下ろしている。
ブッカガキイロイハナガシロイカビンニキレイナアタラシイハナ
でも、それがナンナのか、もうわかraなイノダ......
#君と一緒に
1/6/2023, 2:56:00 PM