夜汽杏奈

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「桜散る」
           夜汽杏奈

桜散る夕暮れ時の橋の上
手のひらに、一枚
孤独な花びらが舞い降りた

一人静かに
下に流れる川を覗き込むと
淡いピンクの花びらは
まるで恋の欠片のように
一枚一枚落ちていった
透き通る水を覆い
絨毯の様に敷きつめられ
優しく、時に熱く
水の音と鼓動も揺れていた

この世界の何処にも
どんな画面の中にも
目に見える確かなものなんて
ないと知った日から
下を向くことに慣れ
全てが無機質な
紙芝居でしかなかった
いつからか満開の桜の木さえ
見上げてこなかった、
何処かの私

儚い夢や、魂の歴史や、時の粒子
花の香り、生命の循環、
優しいメッセージ
守られていたこと
愛されていたこと
今ここにいること

目に見えない想いや愛に
気付く為
下を向く私の、目に映る水面の桜の花びらは
あまりに美し過ぎた

桜散る夕暮れ時の橋の上
永遠に手を繋ぐ二人
下を向かなければ気が付かない
水面の桜の花びらは
いつも心にある

どんな時も
小さな幸せは舞い降りている


4/17/2023, 3:26:31 PM