anago.

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月が綺麗ですね、と言いだしたのはいつだったか。そう告げた表情があまりにも真剣で、その時にした返事を未だ思い出せないでいる。
俺と彼の関係は友達であり、幼馴染でもある。朝晩の登下校はいつも一緒で、不思議と会話が途切れることはなかった。
だから、この関係に終止符を打つ時が来るなんて思いもしなかったんだ。
高2の夏、俺達は同じクラスになった。嬉しいという気持ちを隠して話しかけたかった。根暗な俺は彼の周りにいる人間に邪険にされることが多々ある。顔だけでなく性格も良い彼が学年問わず付き合ってほしいと告白されるのも無理は無い。同じ空間、時間を過ごしていても彼の周りにはいつも人がいた。俺には彼と違って仲が良い友人はいないしどうしてこの学校を選んだのか、思い出せない日々が続きとても苦痛だった。ぼんやりと続く今日も退屈だ。どうして俺だけが彼と話せないのだろうか。
その日の授業で「幸せとは」という題材で感想文を書きなさい、と指示がでた。大人でも唸ってしまうほどの難しい題材を高校生が書けるのか?と思ったが率直に書き始めるしか手は無い。時間内に書けなければ課題となり要らない宿題が増えてしまう。がんばろう。
意気込んだものの1文字も書けず煮詰まっていた。自分にとってなのか相手にとってなのか悩み、教師の目が光る中意識を飛ばしかけていた。
夢を見た。この時はたしか家の2階にあるベランダと彼家のベランダ同士でふざけ合っていた気がする。唐突に言い出した彼は俺の返事を待っている。
目が覚める。夢見が悪いと片付けたくなかった。授業がおわり課題を家に持ち帰って夜を待つ。
22時。電話をかける。1コール、2コール、3コール。電話にでた彼がまだ起きている事をわかっていたが少し緊張する。
「...久しぶり?」
変わらない声で安心した。
「うん、久しぶり。遅くなってごめんな。
俺さ、お前となら 」
「...ふはっ。言うのが遅すぎだバーカ。何年待ったと思っ
てんだよ。」
その日俺達の関係は1歩進んだ。相変わらず俺はあいつに話しかけられないけど前よりもずっといい。
あぁ、今、しあわせだ。

1/4/2024, 3:36:31 PM