雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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―スリル―

『あなたもとっておきのスリルを感じてみませんか!?』
ハガキの上の方に大きく書かれたゴシック体の文字
これが不幸の始まりだった

俺は、この世界のどこにでもいるような、
取り柄のない人間
職業は学生兼暇人だ
そしてたった今…
選ばれし者になったようだ

手の中にある漫画に挟まったハガキを見つめる
繰り返される日々に飽き飽きしてきていて、
何か面白いことでも起きないかと、考えながら
読んでいた漫画の次のページをめくると、
挟まってあった
あなたに見つけてもらえる日を心待ちにしていました
とでも言いたげなそのハガキを無視するという
選択肢なんて、その時の俺にはなくて、
一瞬にして目を奪われた
これこそ今の俺が求めていたものだと、そう思った
漫画から抜き取り、漫画を放りっぱなしにして
ざっとハガキに目を通す
『このハガキを見てあるそこの君!!
あんたは選ばれし者であるんです!
学校とか家事とか仕事とかある
毎日の生活に飽きてますか?
そこで▒▒▒▒グループは、無日常的な時間を
あなたに届けいたします!!
我々▒▒▒▒グループが作り出す至高のスリルを
ぜひご堪能くだしませ!
以下の書いた通りにおいでください
お待ちします』
言い回しがどことなく胡散臭いし、
二人称も不定称、
何より日本語がところどころおかしくて、
企業名か何かと思われる何とかグループの部分は
網掛けされたようになっていて、読めそうになかった
1番下に書いてある何とかグループの連絡先も
きっちり網掛けされていた
それでも俺は一切怪しまず、疑わなかった
興奮かなにかで正常じゃなかったんだろう…多分
下に、書いてある日時や場所、注意事項などを読んで記憶し、記入事項の部分に目をやる
俺の手はひとりでにペンを取り、
そのままサラサラとハガキに走らせた
どんなことを記入したかは覚えていない
ハガキをポストに投函した時のことすら、
よく覚えていない
けれど、夢中になっていたのは確かだった

記載に従って俺は遠い街の廃墟ビルに来た
中には様々な年齢の人たちがいたが、
見た感じ俺と同じくらいの年齢の人がほとんどだった
至高のスリル…一体どんなのだろう
頭に浮かんだのは
俺の好きな漫画のジャンル、デスゲーム
もしあの漫画のようにデスゲームに巻き込まれたら
俺の人生、言うことなしだ

…と、思っていた
『こ、こんなの聞いてねぇよ…』
ハガキに書いてあった文字を思い出す
―無日常的(=非日常的)な時間―
ここに来て10分と経たずにわかった
あれは、日常を断ち切り、
日常を無くす時間という意味…!!
断末魔の叫びが聞こえた
プツンと意識が途切れた
そして、俺がこの世で目を覚ますことは無かった

俺はこの世界のどこにでもいるような、
取り柄のない人間だった
職業は学生兼暇人だった
そしてたった今…
このゲーム初めの犠牲者になったようだ

11/13/2022, 10:44:31 AM